院長エッセイ集 気ままに、あるがままに 本文へジャンプ

心に残る傷跡と胸に刻まれていく善意



2011311日、未曾有の自然災害が発生した。東日本大震災。いまだその被害の全容が定かではなく、死傷者・行方不明者の数は増え続けている。四六時中テレビの映像で見せられる津波の恐ろしい破壊力にただ呆然となる。容赦なく牙をむく自然の猛威に、なすすべを失う人間の弱さ。人智を結集したはずの原子力発電の安全性が、積み木を崩すように崩壊する。日本を襲う同時多発的天災と人災。いま自分に出来ることは何だろう。安易な憐憫や感傷的な同情、これ見よがし的な怒り、それら無価値な感情の昂ぶりを超えて、真に為すべき事は何だろう。医師として、一人一人の生命を大切に扱ってきた自分が、まのあたりにする幾千もの不慮の死。無力感に苛まれる日がしばらくは続きそうである。

 

被災に遭われた方々への支援の輪が広がっている。個人の義援金、企業の寄付、外国からの援助隊。そのニュースを聞く度に、心が潤ってくる。人間は弱いからこそ、結束して強くなれるのだろう。深い傷跡は残るだろうが、それを癒してくれる善意もまた胸に刻まれてゆく。



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